神戸地方裁判所 昭和55年(行ク)13号 決定 1981年4月23日
申立人(原告)
黄重信
同
宮迫玉千代
同
宮迫豊治
同
石田悦子
同
中村正乃
右五名訴訟代理人弁護士
林田崇
(被告)
芦屋税務署長
石光幸平
灘税務署長
中村貞雄
右両名指定代理人
小澤一郎
同
門田要輔
同
岸本輝雄
同
西峰邦男
同
向山義夫
被申立人
国税不服審判所
右申立人(原告)らと被告らとの間の昭和五三年(行ウ)第六号、同第七号所得税更正処分等取消請求事件について、申立人(原告)らから文書提出命令の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件申立をいずれも却下する。
理由
一 本件申立の要旨
民事訴訟法第三一二条第二号、行政不服審査法第三三条第二項の規定に基づき被申立人の所持する別紙記載の各文書(以下、本件各文書という。)の提出命令を求める。
なお、本件各文書、殊に、別紙(一)記載中の中津堯光の審判官に対する質問調書は、同人が死亡した結果、本件に関する陳述を録取した唯一の証拠資料であり、代替性のないものである。さらに、被申立人は、閲覧請求権がないと主張する本件各文書と同様の文書についても、原処分庁である被告等には随時閲覧せしめ、証拠として提出、利用することを認めているのであって、それにも拘らず、原告にはこれを認めないというのは武器平等の原則に反する。したがって、被申立人には、本件各文書のすべてにつき、提出する義務があるというべきである。
二 当裁判所の判断
行政不服審査法第三三条第二項に基づき閲頼を求めることのできる書類が直ちに民事訴訟法第三一二条第二号所定の閲覧を求むることを得る文書に該当するということができるか否かについても、なお疑問がないではないが、その点はさておくとしても、行政不服審査法第三三条第二項は、審査請求人等に処分庁の弁明に対する反論を尽させるため、右弁明(処分理由)を根拠づける証拠資料として処分庁から審査庁に提出された書類等について、これを検討する機会を与える趣旨に出た規定であると解されるのであって、右条項の文言からみても、審査庁が審理に際して自ら収集した証拠資料が右条項による閲覧請求の対象となるものとは解し難いところであるから、右条項を根拠として、審査庁が審理に際して自ら収集した文書の提出義務を負うものと解することはできない(なお、原告ら主張のような事情は、文書提出義務の存否を左右するに足りない。)。したがって、大阪国税不服審判所の審理担当官が審理に際して自ら収集した文書の提出命令を求める本件申立は、理由がない。
もっとも、本件各文書は、右大阪国税不服審判所の審理担当官が審理に際して自ら収集した文書に限定されているわけでもないものの如くであるが、文書提出命令の申立には、申立人において、提出を求める文書を個別具体的に特定することを要するものと解されるところ、本件各文書中、上記の理由により、提出義務を認めることができないもの以外のものがあるとしても、それは、いずれも提出義務の存否を判断することができる程度に特定されているとは認めがたいから、これに関する部分の本件申立は不適法であるというほかはない。
よって、本件申立をいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 松本克己 裁判官 鳥羽耕一)
別紙
文書の表示
宮迫豊相続人宮迫玉千代外三名「大裁(所)五二第二一五号」、黄重信「大裁(所)五二第二一六号」の各申立にかゝる昭和四七年分所得税の更正処分等に対する審査請求事件記録中
(一) 中津堯光氏の質問調書、証明書、陳述書その他同趣旨の書面
(二) 右中津氏に対する問合せ等の調査をなした担当官の報告書・メモその他の書面
(三) 右中津氏提出にかゝる参考書類の原本又は写
(四) その他立証事項に関連する一切の書類
〔参考〕
意見書 (大阪国税不服審判所首席国税審判官)
右当事者間の御庁昭和五三年(行ウ)第六号、同第七号所得税の更正処分等取消請求事件につき、原告らの文書提出命令申立てにより昭和五五年一二月二四日付で御庁から審訊を受けたが、次の理由により、当審判所には原告の主張する中津堯光氏の質問調書等の書類(以下「本件書類」という。)の提出義務はないものと考える。
すなわち、原告らは、本件書類の提出義務の原因を民事訴訟法第三一二条第二号に求め、同号の閲覧請求を求める根拠を行政不服審査法第三三条第二項によるものとしているが、国税に関する審査請求においては、審査請求人が担当審判官に対して書類等の閲覧を求めることができるのは、国税通則法(以下「通則法」という。)第九六条第二項の規定によるものである。
ところで、通則法第九六条第二項の規定により、審査請求人が閲覧を求めることができる書類等は、原処分庁から担当審判官に対して提出された書類その他の物件に限るものであることは、同条の規定からみて明らかであるところ、原告らが提出を求める本件書類は、いずれも担当審判官が作成又は収集したものであって、原処分庁から提出された書類でないことは明らかである。従って、原告らには本件書類の閲覧請求権はない。
また、通則法によって、審査請求人に書類等の閲覧請求権が与えられている理由は、審査請求人が審査手続内においてその主張及び反証等の攻撃防禦方法を講じるため、原処分庁から提出された証拠の開示を求める手続的な利益を保障したものであるから、本件のように、審査請求手続の結論である裁決がすでになされ、その騰本が原告らに送達された後においては、原告らには、もはや閲覧請求権はないというべきである。
以上により、原告らには本件書類の閲覧請求権はないのであるから、原告らの本件文書提出命令の申立ては失当である。